東京新聞 2005年(平成17年)6月5日(日曜日) 朝刊より

靖国神社
A級戦犯分祀を拒否
質問書回答 東京裁判への異論主張

 A級戦犯合祀(ごうし)を理由に中国や韓国が小泉純一郎首相の靖国神社参拝に反発している問題に関連し、宗教法人・靖国神社(東京・九段)は、与党の一部から実現を求める声が出ているA級戦犯分祀(ぶんし)について「あり得ない」と表明した。共同通信の質問書に対する文書回答で、従来の立場を公式見解として示したもので、分祀による問題解決は当面困難となった。
 回答は分祀拒否の理由として、日本の戦争責任を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)に「国際法の視点から根強い異論が残っている」ことや、日本人は戦犯と認識していない点を指摘。全体として、戦争遂行の責任を問われたA級戦犯を擁護する神社の歴史認識を示している。首相がA級戦犯の罪を認める立場を表明しておきながら、参拝を続ける問題性をあらためて浮き彫りにした。
 分祀をあり得ないとする根拠について回答は、一九五三年に「戦犯はいないという全会一致の国会決議がされている」と説明し、「日本人の信仰に基づく問題。中国や韓国の反発はともかく、日本人の反発はいかがなものか」としている。
 東京裁判後、日本では五三年の遺族援護法の改正、五四?五五年にかけての恩給法の改正によって「戦争犯罪による死亡者も一般の戦没者と同様の扱いを受けるようになった」事も指摘。
 A級戦犯として一時は被告席に立った岸信介氏が、首相になったことなどからも「日本国民にとっては戦犯などという認識は全くなかったものと言える」との認識を示した。
 靖国神社の地位をめぐって回答は、六〇年代から七〇年代にかけて自民党が提出した靖国神社国家護持法案に基づく国営は「望まない」とした上で「国家のために命を捧(ささ)げた御祭神(ごさいしん)を国の手で護持すべきは当然のこと」と、一宗教法人を超えた特別な地位を求めていることを示唆した。
自民党の中川秀直国対委員長は五月二十九日、靖国神社と遺族の協議によるA級戦犯分祀を期待する考えを示していた。靖国神社の大山晋吾広報課長は、分祀問題に関する政府や自民党からの接触について「問い合わせはあったが、分祀要請はない」としている。